弱小バスケ部の奇跡










───スパッ




「え、入った? 入った?!」


「入った棗! ナイッシュー!!」




未希とハイタッチをする。





「やぁっっっったぁぁぁぁぁぁあっっ!」


「うるさい棗っ、近所迷惑だっ!!」




あたしはずっと、ぴょんぴょん飛び跳ねている。





だってだって!


未希の言葉の通りやったら、ほんとに決まるんだもん!!!!




やっぱり未希はすごい…………ッッッッ!














「…じゃ、スピードつけてレイアップ」


「…え」


「当たり前でしょうが。あんなノロいレイアップじゃ試合で使えない」





………なんか、釘を刺された気分。




まぁほんとにその通りだから言い返せない。





「ドリブル速くてもさっきと一緒だからね!」


「わかってる!」




要するに、高く跳んで置けばいいんだから。





得意の右ドリブルで、トップスピードでゴールに向かう。







───スパッ




「おぉっ、ナイッシュー棗! 右は完璧だね」





すごい…………!


レイアップって、こんなにもすんなりできるんだ。




球技が全然ダメだったあたしでも……!!










「じゃ、次は左レイアップだ」


「え、まじすか未希様」


「当たり前はいレッツラゴー」


「ひいぃぃぃぃぃいっ」





未希がいきなりコワくなったせいか、あたしはさっきよりもずっと丁寧にレイアップ。





───スパッ



「おぉ、いいじゃん。じゃ速くして」


「ひぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあ」








そのあと、未希になにされたかわかる?






左右レイアップ、50本ずつ。

トップスピードで。





まぁ、筋肉痛っす。









翌日、月曜、放課後、廊下。




「なんか棗ちゃん、昨日とおとといで未希ちゃんに特訓してもらったんだって?」


「うそうそっ、そうなの!?」




体育館に向かう途中、蒼乃はどこから仕入れたのかそう言ってきた。


それに食いついた和香。




「おかげさまで筋肉痛」


「相当ハードだった?」


「えぇまぁ。最後の方は鬼だね」


「誰が鬼だって?」


「ひいぃぃぃぃぃいっ!?」



あたしと和香のやり取りを聞いていたのか、背後からおに……じゃなくて未希様のご登場。




……あぁだめだ思い出す。







「集合ーッ」


「「「「はいッ!!!!」」」」



美凪の声で全員集合。



「今日のメニューは、主にディフェンスの強化ね。今日でディフェンスは完璧にできるようにしてもらうからね」




ディフェンスなら、おととい未希に教えてもらったから大丈夫。





……なはず。




「じゃ、ペアは前と同じ。未希がディフェンス、和香がオフェンス。棗がディフェンス、蒼乃がオフェンスね」





あたしがディフェンスだ……!!





未希と和香はあっという間にエンドラインまで行った。




「ほい、次は棗と蒼乃」


「うい」


「棗ちゃん、頑張ろう!」




あたしは蒼乃と向かい合った。









ボールを持つ蒼乃に、あたしは早速教えてもらったことを実行。




あたしは右の方が行きやすいから……




じゃあ、右足を引けばいいのか!!





あたしは右足を一歩分引いて、蒼乃のディフェンスについた。







三度目の正直。



今回こそは…………っ、



絶対に………っ






勝つ!!!!!






蒼乃は右に来た。


すかさずあたしはぴったりマークにつく。




速いドリブルなら、未希ので実践済み。



あたしは必死についていく。












あたしは、蒼乃の手からボールが離れた一瞬のスキを狙って…………







───パンッ



蒼乃の手からボールが消えた。





コロコロとフロアに転がるボール。





「ナイスカット! 練習の成果だっ!」


未希があたしに駆け寄って来て、笑顔を向ける。



「ありがとう未希…っ!」


「いーいー!」



未希はニカっと笑う。




「ナイスディフェンス棗!」


「美凪!」


「すごい上手かったよ今の!」


「ありがとう!」



初めて、美凪にディフェンスに関して褒められた気が……






「棗ちゃんすごいよっ! すごい!」


「…ども」



和香までもが、なぜかぴょんぴょん跳びはねながらそう言う。





……それで、ジャンプ力上がればいーのにね………。










「…ふふっ、カットされちゃった☆」


蒼乃は笑いながらそう言って、転がるボールを拾い上げた。




「棗ちゃんのディフェンスすごく上手だったよ」



蒼乃は、また笑ってみせた。






「……でも、やっぱり悔しい」


「っ、」



蒼乃はぼそっと言って、唇を噛み締めていた。







〝悔しい〟




あたしは、蒼乃に何回も抜かれて、悔しくて、未希と練習して、そして今、練習した成果が出た。



あたしだって、死ぬほど悔しかった。


だから、負けないようにって頑張ったんだ。











〝悔しい〟




誰かが誰かに対してそう思って、それで、負けないようにって努力して頑張って、それを見た誰かがまた頑張って…………




皆仲間で、皆ライバル。






これが続いていったら、あたし達はどれくらいのチームになれる?





あたしは、









絶対、いいチームになると思う。

強くなれると思う。



全員で全員を高め合って、さらに上にいく。




これが、引退のその日まで、ずっとずーっと続いていったらいいなって思うよ。







「はい、じゃあ次ね!」


美凪がパンパンッと手を叩いた。



「ペア変えるよ。未希と棗、和香と蒼乃。未希がオフェンス、棗がディフェンス。和香がオフェンス、蒼乃がディフェンス」




「練習の成果、さらに見してやんなよ」


未希がニカッと笑った。