カットした未希は、計算通り、と言わんばかりにニンマリ。
「今、左しか行けない、って思ったでしょ?」
「っ!!」
あたしは驚きで目を見開く。
なんで、未希にはわかるんだ…。
「これだよこれ!」
「…え?」
「相手に行かせたい方向に行かせればいいの!」
………あぁ、さっきの言葉の意味って、これ?
「相手から見て左、自分から見て右に行かせたいなら、ディフェンスは右足を引けばいい。行かせたい方の足を引けば、オフェンスはそっちに行かざるを得なくなる」
……おぉぉぉぉー、確かに。
「自分の行かせたい方に来るから、ディフェンスだってつきやすい。ね?」
未希、ドヤ顔。
すごい、すごいよ!!!
バスケって奥が深い!!
「じゃ、棗がディフェンスやってみて」
「うん、わかった」
じゃあ、さっきの未希と同じく、右に行かせよう。
あたしは右足を引いてディフェンスにつく。
すると未希は、右じゃなくて左にドリブルしていった。
「っえ、未希!?」
あたしが呼び止めると、未希は苦笑いしながらやって来る。
「…ディフェンス遠いよ」
「え?」
「ディフェンスとオフェンスとの距離が遠いよ。これじゃ、なんのプレッシャーも与えられない」
……プレッシャー…?
「プレッシャー与えないと、相手は簡単に抜けるよ。こっちにしか行かせない、ってプレッシャー与えないと。ディフェンスはもっと近くでつかなきゃ」
あたしは言われた通りに、さっきよりも近くでディフェンスにつく。
未希は、
あたしの行かせたい方向、右に行った。
それから、ピッタリとマークにつく。
最後まで気を抜かず。
未希のドリブルはものすごく速いけど、あたしは必死になってマークをした。
───パンッ
あたしの左手が、未希のドリブルをカットした…………
う、そ………
あたしは、自分の左手をまじまじと見る。
「ナイスカット棗!」
未希がボールを拾い上げて苦笑する。
「ほんとはカットされないように頑張ったつもりだったんだけど……棗は上手い」
「っ、未希…」
上手いんじゃないよ。
未希があたしに、魔法の言葉をくれたから。
その通りにやったらこんなにもすんなり、自分でもびっくりするくらいにできた。
「じゃ、次は左に行かせてみて」
未希は軽くドリブルをつきながら位置につく 。
「うん、オッケー」
あたしは小走りで未希のもとへ行った。
翌日、日曜。
家の電話が鳴った。
「棗ーッ、未希ちゃんから電話ーーッ!」
昨日は仕事でいなかった母さんが、下から声を張り上げる。
未希?
なんかあったのかな?
あたしは急いで下に降り、母さんから受話器を受け取る。
「もしもしっ?」
『あ、棗。ごめん』
「大丈夫! ね、なんかあったの?」
『シュート練習、しない?』
………シュート練習……?
『棗はほら、ポジション的に点取り屋でしょ? だから、土日とも休みは今回くらいしかないし、早めに練習しとかないかなって』
未希の言葉に嬉しくなって、思わず視界が滲んだ。
「うん、ありがとう!」
あたし達は、また昨日の公園に集合することになった。
マイ・バスケットボールを片手に、ね。
あたしは、初めてのシュート練習ということでワクワクしていた。
走って公園に行くと、ちょうど未希も来た。
「未希、速いね。おはよう」
「おはよう。そんなことないって」
言いながら、未希は謎のシュートをした。
バックボードの下に回り込んで、ボードを背中にシュートを決めた。
「未希、なに今の……」
「あぁ、練習重ねればできるよ」
あんなすごいやつ、あたしにできんのかな……?
未希は「じゃあ」と言って、レイアップを決めた。
「まずは、シュートの基本中の基本、レイアップの練習からしよう」
高柳 棗、初・シュート。
あたしは数回ドリブルをついてから、ゆっくり目にゴールに向かう。
「レイアップシューーーッ」
───バゴンッ
ボールはボードに当たり、見事に跳ね返った。
未希は跳ね返ったあたしのボールを拾い上げ、
「ウチも最初はそうだった」
と笑う。
右レイアップは、右足から2歩分ステップでシュート………ってことは知ってる。
そしてその通りにやった。
…………結果、キレイに跳ね返る。
「ステップはできてるからさ、あとは打ち方」
未希はもう1回レイアップをした。
「腕の力だけで決めようとしても無理。大事なのは、全身でシュートすること」
……ぜ、全身で、シュート…………???
「実際、腕の力って必要ない。踏み切りで高く跳んで、ボードの……ほらあそこ」
未希はボードを指差す。
「あの、黒い線に当てる。ボールを置く感じで」
高く跳んで、黒い線に当てる。
置く感じで………。
あたしは何度も頭の中でリピートしながら、もう1回ゴールに向かう。
高く跳んで、黒い線に当てる。
置く感じで……………!!!!