「えぇっ、うそっ、棗っ!?」
美凪が目を見開いた。
「うそうそっ、棗ちゃんっ、すごいッ」
蒼乃が拍手。
「…うま」
未希も褒めてくれた。
「やばいやばいっ、棗ちゃんやばいっ!」
……え、なにがやばいの和香。
あたしは翌日の練習で、昨日の練習の成果を発揮していた。
エンドラインからエンドラインまで。
レッグスルーやロール、バックチェンジなどを交えて、速いスピードでドリブル。
昨日は、ほんと、練習してよかった。
練習は裏切らないね。
「じゃ、ディフェンス練習始めるよ」
「「「「はーい」」」」
美凪がボール籠からボールを取り出し、1人1人に渡していく。
「あ、美羽ちゃんも練習入ってね」
「は、はいっ」
美羽ちゃんにもボールが渡されたところで。
「ペアは昨日と一緒ね。まずは、未希がディフェンス、和香がオフェンス」
和香はボールを持ち、未希と向き合う。
───ダムッ
ドリブルを始めた和香に、ディフェンスの未希はピッタリとマークについた。
和香は何度もフロントチェンジで方向転換するも、上手いとしか言いようのない未希のディフェンスに苦戦している。
───パンッ
「あっ…!」
和香がフロントチェンジする、まさにグッドタイミングで、未希はドリブルをカットした。
「ナイスカット未希!」
美凪が拍手。
「すごいね未希ちゃん! 羨ましいよ」
蒼乃も続いて拍手を送る。
やっぱり、未希はすごい。
バスケをするために生まれた、ってのは大袈裟かもしれないけど、でもそれくらいすごい。
ドリブルをとっても、ディフェンスをとっても、そして、得点力をとっても、
未希は、M中バスケ部にいなきゃならない存在だ。
「なにぼぉっと見とれてんの棗! 次は棗がディフェンスだよ?」
いきなり目の前に美凪のどアップ。
言われて気がついた。
あたしは、未希のディフェンスに、プレーに見とれてたんだ。
「ほら棗ちゃん! ディフェンスディフェンス」
「…あ、あぁうん」
蒼乃にも言われ、あたしはやっと蒼乃と向き合う。
ボールを持つ蒼乃に、正直一瞬怯んだ。
なんか、自信に満ち溢れてるっていうか、なんか、そんな表情してて。
あたしはそこを突かれた。
その一瞬を、初心者にも関わらず蒼乃は見抜いたのか、あたしがしっかり前を向いた時には、もう目の前に蒼乃はいなかった。
「おぉっ!」
「蒼乃ちゃんすごいっ!」
美凪と和香が蒼乃に拍手を送る。
「ばか。なにやってんだよ。今のはフェイクもなにもなかったじゃん」
未希だけはあたしのとこに来て、そう言った。
「…うん……」
今のは、あっさり抜かれるようなすごいプレーなんかじゃなかった。
蒼乃には悪いけど。
ディフェンスの基礎が出来てりゃちゃんとついてけるオフェンスだった。
───でも、
あの、蒼乃の表情に圧倒されたのか…
あたしは………
表情1つで怯むような、弱いやつなのあたしって…?
ううん、違う。
あたしは頭をぶんぶん振る。
ディフェンス練習の時、美凪が言ってた。
───『マンツーマンディフェンスは、1人1人が責任持って守んなきゃいけない。死ぬ気で守んなきゃだよ。抜かれたらそこから一気に攻められるからね』
そう、あたし1人があっさり抜かれたら、そこが穴だって、オフェンスはあたしんとこから攻めるに違いない。
あたしのオフェンスは、あたしが守る。
マンツーマンは、そういうディフェンス。
「じゃーもう1回! ペアは今のまま。オフェンスとディフェンスもそのままね」
美凪が手をパンパンっと叩いて、右の人差し指を立てた。
「「「「はいッ!!!!」」」」
まずは、さっきと同様、和香がオフェンス、未希がディフェンス。
ボールを持ち、未希と向かい合った和香は、さっきと表情が変わった。
和香、集中してるんだ、さっきカットされたから。
───ダムッ
和香は右にドリブル。
即座に未希はディフェンスにつく。
未希がオフェンスの正面に入ったのと同時に、和香はいいタイミングでフロントチェンジをした。
さっきよりも、いい感じ。
ドリブル練習の時、和香はCだから必要ないとか言ってたけど、そう言ったのが嘘みたいに、和香のドリブルはよくできてる。
すごいね、和香。
あたしも頑張らなきゃ。
向こうのエンドラインまでたどり着いた未希と和香。
「じゃ、次は棗と蒼乃だよ」
美凪がそう言う。
蒼乃は数回のドリブルをつきながら、あたしと向かい合った。
あたしはディフェンスにつく。
今度こそは───
「いくよ、棗ちゃん」
「オッケー」
準備万端。
いつでもいける。
あたしはさっきよりも何十倍も集中して、ドリブルする方を、蒼乃の目を見て予想する。
───これは、右に行く。
次の瞬間、あたしの予想通り、蒼乃は右にドリブルしてきた。
すでに構えていたあたしは、すぐに反応してディフェンスにつく。
よし……っ
しかし、蒼乃はロールをしてあたしを抜き去った。
!?
う、そ………