「ごめん。全部が嘘に聞こえるから」

「樹里......」

亮二がとても悲しそうに名前を呼んだ。

でも、今のあたしには受け止める余裕なんてなかった。

亮二は玄関までついてきたけど、振り切って出てきてしまった。

「帰ってくるの待ってる」

そんな亮二の声が聞こえたような気がしたけど、あたしには帰る気なんてさらさらない。

だって亮二に浮気されてたんだよ。
そんな相手とどんなふうに過ごせと言うの?

外は蒸し暑かった。
家を飛び出したけど、財布も携帯もない。
あぁ。用意周到にすべきだったよ。

あたしはとりあえず、マスターの店に向かった。

事情を話して携帯を借りて、あかねに連絡しよう。