涙はどんどん溢れ、サオリの顔を濡らした。

今まで体感した事のない恐怖がサオリの心をボロボロにしていく…

廃屋の中は静かで、サオリのすすり泣く声しか響かなかった。

壁に当たって帰ってくる自分の泣き声はサオリの心に孤独感をも植え付けていった。

『もうやだぁ!!』

恐怖と孤独がサオリの心を支配した時、サオリはドアに向かって走り出した。

勇気が芽生えたわけでもなんでもなかった。

恐怖による足の震えが止まったわけでもなかった。

サオリを突き動かしたのは生に対する執着心だった。
乱暴にドアノブを掴み、何度も何度もドアにきゃしゃな身体をぶつけた。

《ガン!ガン!…》

鈍い音が部屋中に鳴り響く…

サオリにはもう何がなんだかわからなくなっていた。
みるみるうちにサオリの左の肩は紫色になっていく。
それでもサオリは止めなかった。

しかし、サオリの身体にはもう力が残っていなかった…

初めは力強かった体当たりの音もだんだん弱くなり、遂にサオリはその場に崩れるように座り込んだ。