ギュッと、左胸を掴みその場に蹲る。
颯斗さんだけでも、逃げられますように。
っ、はあああぁぁぁぁっ!!!!!!
私の身体が一瞬白い光りに包まれ、その光が円を描くように拡散していく。
その光を追うように、凄まじい風が周囲に広がっていった。
風は半径100メートルの生きとし生けるものを薙ぎ払い
生い茂った木々は、幹を残し全て散り
草木は枯れ、私の傍にいたヴァンパイアの彼の姿は跡形もなく消えていた。
ははっ・・・私こそ、化け物だ・・・
意識が暗闇に囚われる瞬間、目の前の光景をみてそう思った。
「っ、これが・・・巫女姫の力・・・」
上空高く舞い上がった颯斗は、目の前に広がる光景を見て
驚いていた。
あの時、瑞姫ちゃんに逃げろと言われなければ
俺も一緒に巻き込まれていた。
この力は、一体・・・あ、瑞姫ちゃんは?
上空からあたりを見渡し、彼女がいた場所を探す。
すると、木の幹に蹲るように倒れている彼女の姿を見つけ
ふわりとその場に降りる。
「瑞姫ちゃん、しっかりして。瑞姫ちゃん?!」
肩を揺するものの、返事はない。どうやら、意識を失っているようだ。
とにかく生きている・・・よかった。
彼女の身体を横抱きにして、もう一度上空へ。
冬夜が、瑞姫ちゃんが来たって言うから
慌てて追いかけてみれば、こんな事になるなんて・・・
でも彼女の力が分かっただけでも、収穫があったというべきか。
しかし、まさかこれほどの力とは・・・
「全く、冬夜も何考えてるんだか。」
颯斗の姿は、生徒会室がある建物へと消えて行った。
あの日から丸一日たったが、彼女はまだ目覚めない。
生徒会の一番最上階にある冬夜の部屋。
そこのベッドで静かに眠る瑞姫ちゃんの姿。
なにが彼女に起きているんだろうか。
「冬夜は、知ってるんだろ?彼女の力のこと。」
「あぁ。」
ベッドの端に腰掛け、愛おしそうに瑞姫ちゃんの髪を撫でる冬夜。
正直なところ、二人の過去に何があったのかは知らない。
けれど深いところで繋がっているってことは分かる。
他人に興味を持たない冬夜が
瑞姫ちゃんをあんなにも気にかけているのだから。
「こいつは・・・瑞姫の力は、生と死。今回のように、相手の命を奪うこともあれば与えることもある。」
「与える?・・・それって、治癒ってこと?」
「少し違うな。瑞姫の場合は、自らの命を削りソレを相手に分け与える。」
「それじゃ瑞姫ちゃんは・・・」
俺の左目のマリンブルーの瞳が、ズキッと疼く。
冬夜は、ベッドから離れソファに座りなおした。
俺はそれを目で追うように見つめる。
「まぁ、今ではある程度は制御出来ているみたいだがな。」
「じゃ、なんでこんなことに。」
「・・・多分、俺の所為だな。」
「冬夜、まさかわざと?」
冬夜は何も言わず、目を伏せる。
それは肯定という意味で。
「なんで、そんなこと。」
「あいつは、理解しなければいけなかった。俺達が、人の血を啜り生きるヴァンパイアだという事を。」
「そんなことをしなくても・・・」
「本当の意味で分かって無かったさ。だから・・・」
「もしかしたら、違う意味でショックを受けたかもしれないよ。」
「?、何のことだ?」
本気で何を言っているのか分からない、といった顔の冬夜。
瑞姫ちゃんが不憫でならない。
起きたら、ちゃんとフォローしておこう。
それにしても、彼女の力。生と死か。
こんなところで再び出会うなんて、皮肉だな。
☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨
☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨*☨
「・・・ん・・・ぁ、ここは?」
薄暗い部屋・・・どこかで見覚えが・・・
黒を基調とした家具・・・あ、冬夜の部屋だ。
「気が付いたか?」
「とう、や・・・・・・あっ、颯斗さんは?颯斗さんは無事?」
冬夜の顔が目に入り、そして一気に記憶が甦ると
彼の腕を強く掴んでいた。
最初は驚いていたけれど、なぜか不機嫌な顔になり
私の腕を掴み、それを外した。
「颯斗は生きてる。心配しなくていい。」
「そぅ・・・良かった。」
「お前は、三日三晩眠ってたんだ。どれだけ心配したと・・・でも、お前は俺より颯斗が気になるんだな。」
「なに言って・・・だって・・・」
颯斗さんは、あの時あの場所にいて私の力で消してしまうところだった。
その時、冬夜は・・・冬夜は・・・
「冬夜は、綺麗な女の人の血を吸ってたじゃない・・・」
「だからなんだ。俺達は、ヴァンパイアだ。血を吸うのが当たり前なんだよ。」
そんなの、分かってる。
私が言いたいのは、そんな事じゃない。
私は・・・私は・・・
「颯斗がそんなに良いなら、連れてきてやる。」
「っ、冬夜・・・」
シーツをギュッと握り、喉まで出かけた言葉を飲み込む。
冬夜は一瞬、目だけを私に向けたけれど
何も言わないと分かり部屋を出て行った。
・・・言えない。私は、彼ら以上に化け物なんだ。
だから、あの言葉は私の中に仕舞い込もう。
きっと、冬夜も呆れてる。
私は冬夜には相応しくない。
巫女姫なんて、そんな聖なるもののように言われているけれど
そんなに良いものなんかじゃない。
あの力は・・・この世に、あってはいけないものなんだ。
暫くして、ドアがノックされ
紅茶セットを持った颯斗さんが入ってきた。
「目が覚めたんだってね。具合はどう?」
「ご心配おかけして、スミマセン。でも、本当に良かった・・・生きていてくれて。」
「あの時、瑞姫ちゃんに逃げろって言われなければ危なかったけどね。」
「ごめんなさい。巻き込んでしまって・・・」
両手をギュッと握り、俯く。
そんな私の前に、ミルクティが入ったカップを
ソーサーに乗せ差し出してくれた。
「そんな顔しないで。俺は、助かったんだから。」
「はい・・・。」
「でも、驚いたよ。君にあんな力があるなんて。」
あ、そうだろうな。
カップを受け取り、膝の上に置き考える。