†*†ヴァンパイア学園†*†  巫女姫×王子



例え行ったとして、きっと冬夜が鬼のように怒るに違いないし。

ココは、大人しく帰ろう。




「よっ、授業終わったんだろ。帰るぞ。」




教科書をカバンに詰めて帰り支度をしていると

ヒロが、教室の前に立っていた。




「ヒロ、今日来てたんだ。」

「あぁ。さっさと、帰るぞ。」




ヒロは私からカバンを奪うように取り上げると

スタスタと歩き始めた。




「あ、待ってよ。」





今日は、いつにも増して言葉数が少ない。

冬夜とは違って、居心地が悪い。




「ねぇ、今日は蒼生君や紅寧さんは学校に来てないの?」

「知らねぇ。」

「冬夜に、今日生徒会室に来るなって言われたけど、なんかあるの?」

「・・・。」

「ねぇ、ヒロ。」

「んだよ。さっきから、うっせーな。とっとと歩けよ。」




そんなに怒らなくてもいいじゃない。

ただ、今日は満月で・・・赤いねって言おうとしただけなのに。

それにしても、空に浮かぶ赤い月が不気味だな。




「着いたぜ。じゃぁな。」

「あ、ヒロ・・・。」

「なんだ?」

「・・・なんでもない。ありがとう。」

「あ、冬夜から伝言だ。今夜は絶対部屋から出るな、だってよ。」




部屋から出るな?それってどういう?

生徒会室にも来るなって言うし、何がどうなってるの?




訳が分からないまま、寮に入り独り静かに考えていた。

今日一日の出来事を。

出来るだけ細かく、思い出しながら。



何かがおかしい。

私の知らないところで、何かが起きている?



そう言えば、特Aクラスの人達を今日は見ていない。

いつもなら校庭や、寮の近くで見かけるのに。



今日は満月・・・・・・関係があるんだろうか?

何気に窓に近づき、空を見上げた。

怪しげに輝く、赤い月。




「っ、冬夜?」




ふと、寮の外にある木の茂みに人影を見つけた。

それは間違いなく私を見ていて。



一瞬冬夜に見えたが、陰に隠れて顔がよく見えない。

目を凝らしてもう一度見たけれど、その姿はどこにもいなかった。





胸がザワつく・・・嫌な予感がしてならない。

次の瞬間、私は何かに突き動かされるように寮を飛び出していた。

向かったのは、来てはいけないと言われた生徒会室。



っ、はぁ・・・はぁ・・・



今まで生きてきた中で、こんなにも一生懸命に走ったかと思うくらい

走った所為で、息が苦しい。



生徒会室の扉の間で息を整えると、ドアノブにでを掛けた。

すると――――――




「ぁン・・・王子、もっと・・・ああっ」




え、なに・・・女の人の声?

心臓が爆発するかの如く、バクバク音を立て始める。

ここまで走ってきた所為か、それとも他の何かの所為か・・・




音を出さないように、ゆっくりと扉を数センチ開けて中の様子を見る。

見てはいけない、そう頭の中に警鐘が鳴り響いているのに。



薄暗い部屋・・・そして、ソファに2つの影。

1つは、ウェーブの掛かった髪の長い女の人。



そしてもう1つは・・・・・・冬夜。



女の人がソファに座り

覆いかぶさるように冬夜が彼女の首元に顔を埋めていく。



それはスローモーションのように見えて―――――




「あ、あぁン・・・はあっ。」




彼女の背が、弓なりに反りあがったと同時に

声が大きく・・・甘く部屋に響き渡る。




その場所から、離れなければいけないのに目が離せない。

冬夜は、何をやっているの?



暫くして、冬夜が女の人の首筋から顔を上げた。

月明かりに照らされた彼の口元は、赤く濡れている。



あ・・・血を、血を啜っていたんだ・・・

そ、か・・・彼はヴァンパイアだもの、ね・・・そうか・・・



やっと、体が動いた。

足元がふらつきながら、私は来た道を歩いていた。



ふっ・・・うぅ・・・



涙が、ひとつ零れ落ちる。

これは、一体何の涙?

怖い・・・悲しい・・・辛い・・・



どれも、違う気がする。

でも胸が苦しい。締めつめられるよう―――――――




苦しくて、苦しくて、とうとう校庭の木の下に崩れるように座り込んだ。



知っていた、分かっていた。

彼がヴァンパイアだという事は。



でも、今までそんな素振りがなかったから

蒼生君も紅寧さんも、ヒロも颯斗さんも・・・

みんな、そんな影1つ見せなかったから



普通の人間と変わらないと、思い込んでいた。



でも、違う。

彼らは、人間の血を啜り生きる者。



頭では、分かっていたのに――――――――――




「やっと、独りになった。」

「っ、だれ?」





月明かりの中、近づいていくる男の人。

声の感じからして、この学園の生徒。



でも、普通の人間じゃない。

何故なら、彼の眼は赤く光っていたから。

ヴァンパイア―――――――


こんな時に会うなんて・・・



ドクンッ!



心臓が大きく跳ねた。

ヤバい、この感じ・・・これは・・・



ドクンッ!!



また、大きく跳ねる。

くっ・・・早くここから離れなきゃ。

そう思うのに、足が思うように動いてくれない。





「どうしたの?怖さのあまり、声も出ない?」

「来ないで・・・早く、ココから離れて。」

「なにわけの分かんないこと言ってんだ。それより、お前の血飲ませろよ。」




男は、ニヤニヤしながら一歩また一歩と近づいてくる。

もう今の状況理解しなさいよ。バカッ。




「瑞姫ちゃんっ!?」




え・・・この声、は・・・颯斗さん?

颯斗さんまで、ココに居るなんて・・・くっ、時間がない。




「颯斗さん、逃げて・・・早く、ココから逃げてっ!」

「え、なんで?」




ドクンッ!!!

もう、抑えられない――――――