「あの…大丈夫?私の声聞こえますか?」

恐々と声をかけるが、男から返事はない。

不安になったリーシャは「ごめんなさい」と心の中で詫びて頭を覆っていた布に手をかける。

布に隠された顔はとても整っており、褐色まではいかないが健康的な肌をした素顔が露わになった。

目に見えて指通りの良さそうな金色の髪は女性が羨むほど艶やかで、きめ細かな肌は化粧を施したように綺麗だが、角ばった顎のラインや喉仏を見るとやはり男だ。

整った顔に目を奪われて本来の目的を忘れかけていたリーシャは我に返り、男の首に手を伸ばす。

すると、触れた指先から小さな躍動が感じられた。

最悪な状態でないことにひとまずは安堵し、その場にへたり込むように座り込む。




「どうしよう…」

このままの状態でこの場を離れるには気が引けるし、何より男の様子が何かおかしい。

額には汗が滲み、苦しそうに眉を寄せているのだ。

酒に酔って寝ているだけなら放って行くこともできたが、このままの状態で裏路地に置いて行くのはまずい気がした。



(連れて行こう…)


そう決めるや否や、リーシャは周りを念入りに見渡し、人の気配がないか探る。

最後に耳で足音を探った後、誰もいないことを確認して男に向き直る。

そして右手中指の透明な石がはめ込まれた指輪を口元に寄せ、小声で何かを呟く。