しかし、リーシャにとって建国祭は人が多くて煩わしいものでしかなく、嫌な思い出しかなかったため一刻も早く郊外へ抜けたかった。

裏路地をぬって郊外へ行くには何度か大通りを横断する必要があり、人の目にさらされることは目に見えている。
これ以上人が多くなる前にここを抜けなければならない。

そんなことを考えながらリーシャはある決断を下した。

右手中指にはめた指輪に触れながら裏路地からさらに逸れた細い道に入った瞬間。




「きゃ!」

何かに足を取られて前のめりに転げた。




「もう…何でこんな道の真ん中に物を置いている…の…」

両手をついて上半身を起こし、振り返ったリーシャは自分が躓いた物を見て言葉を失う。

暗がりで良く見えないが、上から僅かに差し込む夕焼けに照らされた金色の髪を見て、体半分預けていたそれから体を起こす。

そして、近くまで寄って嫌な予感が確信へと変わった。

裏路地に置かれていた荷物か何かだと思っていたそれは、人だった。

厚手のローブを纏い、ターバンの様な布で覆って顔は見えないが、体格から男だということは明らか。

ローブの下に着ている服は所々鋭利なもので切り付けられたような裂け目があり、血が滲んでいる。

右腕の服は上腕部分まで焼けただれ、自分で応急処置をしたのか、ローブの切れ端がきつく巻かれていた。