「そういえば、ライルさんはオルナティブで働いているんでしたよね。ライルさんが店に入ってからお昼のお客さんが増えたって聞きますよ」
「そうみたいだね。ライルの料理はおいしいから」
「それだけじゃないみたいですよ」
メリアーデはそういって、からかう時に見せる含み笑いを浮かべた。
「料理だけじゃなくライルさん目当てでお店に行く女性客がたくさんいるんですって。侍女の間でもオルナティブにカッコいい人がいるって噂でもちきりみたいです」
「え?ライルが?」
「えぇそうみたいです。そうまでいわれるライルさんを一目見てみたいものですね」
確かに贔屓目で見なくても、ライルは誰もが格好良いと認められるであろう容姿をしていた。
すらりと高い身長に、広い背中、均整のとれた体躯はまさに理想形。
端正な顔立ちが象る表情は例え無表情だとしても哀愁を帯びてその色香も増すのだろう。
加えあの優しい性格だ。女性たちがライルに好意をもつのも分かる気がした。
(あ…まただ……)
リーシャは胸を抑え、チクリと小さい棘が刺さったような痛みを感じた。
その痛みは強く、メリアーデから聞かされた噂話は店主の例え話よりも現実的で、リーシャを動揺させた。
お気に入りの玩具を奪われた時のような子供じみた癇癪の起こしているようなものなのか。
今までライルのことを他人の口から聞くことがなかったため、改めてライルの周りには自分だけではないのだと分かり、焦っているのか。
しかし、何故焦っているのか。リーシャにはその理由がすぐには分からず、ただ漠然とした焦燥感が襲っていた。