「ここまでは一気に進めましたけど、メモは取れましたか?」
「は、早すぎて目が回るようだったけど、なんとか」
メリアーデがメモを見ると走り書きをしていて読みにくいが、一連の流れは記録できていた。
「はじめは無理しなくても良いんですよ。私みたいに二つのかまどを使わなくても、まず油でジャガイモとニンジンを揚げておいて、それが終わったら次の手順に進めばいいんです」
「もちろんそうするつもり。メリアーデさんのように手際よくできないから。それにうちかまど一つしかないし」
「それは不便ですね」
メリアーデのいうとおり、かまど一つで何品も料理を作るにはリーシャの家の台所は不便だ。
けれどライルは文句ひとつもらすことなくいつも料理を作っている。
「ライルにかまどひとつ増やそうか?って提案したんだけど、勿体無いからいいって。それにライルも手際が良いから不便に思ってないみたい」
「ライルさんも働いているのにすごいですね」
レッスンが始まった当初、メリアーデから“料理を食べさせたい人”について質問攻めにあい、ライルと同居していることはとうに知られていた。
当然、建国祭の夜に満身創痍の状態で倒れていたことは伏せているため、メリアーデにとってライルは隣国から来た出稼ぎ商人として認識されている。