じゃあ誰もいねーじゃん、なんていいな
がらコンクリートに寝そべった豊。
……意地でも認めないつもりか?
「溝口だよ」
俺がそう言うと、豊は渇いたように笑っ
た。
「かなえみたいなあんなキーキー煩いの
、俺の好みじゃねーっつの」
「嘘つけ、あんな愛しそうな目でみてん
のに、好みじゃねーってことは無いだろ
」
あんな豊、見たことない。
慈愛に満ち足りた眼差しで、愛しそうに
溝口を見つめてて。
あんなに柔らかい表情をした豊、初めて
みたし、本気なんだろうって思った。
「……はぁ。自分のことは鈍いくせに」
「あん?」
豊は何かをボソッと呟くと、反動をつけ
て起き上がった。