ふと、向坂くんが私とかなえちゃんを見
ながらそう言った───けど。
「あ、そうだ」
しまった、というようにかなえちゃんが
呟く。
そう。いつも食堂だったから、二人とも
持ってないんだ。
「……今からでも食堂、間に合うぞ」
思わず立ち上がった私を見上げてそう言
った向坂くん。
「でも、」
「俺らは気にすんな。豊がお前のこと見
せろって脅してきたから連れてきただけ
だし。もう一目みたし、いいだろ」
そんな向坂くんに、ペコッと一度だけ頭
を下げて、かなえちゃんと二人で食堂に
向かった。
よかった、あそこから抜け出せて。
芝崎くんみたいなテンションにはあんま
りついていけないし……、それに。
ちょっぴりタバコの匂いがしたのは、気
のせい……だよね、やっぱり。