私の大嫌いなにおい。

もうずっと昔から、トラウマなこの煙草
のにおい。



嗅ぐだけで嫌な気分になって、大泣きし
て、逃げ出したい気分になる。



それから―――私と彼との接点を、もた
らした忌々しい根源。



思い出すだけで、自分の行動と発言を悔
やむ。



それから、自分のくじ運のなさを。



「ほら、挨拶は?」



小さな子供をからかうような声で、彼は
私にそう聞いた。



ちょっと小首を傾げて、無邪気な光を瞳
に宿しながら。



「おはようって、それだけでいいだろ?
ほら、言えないなんて言わせねーよ?」


「……っ」


「そんな泣きそうな顔したって、許して
やんない。だって俺と約束したじゃん」