あぁ、面倒なことに…。

「大丈夫ですか?ひょっとして、迷子ですか?」
男性の肩にそっと触れる。すると、彼はオレの置いた手の服の袖を素早くぎゅっと掴んで言った。

「1日だけでいいんです。僕をあなたの家に、連れていって下さい」
「またそんなこと。いい加減に…」

待てよ。こいつは精神的におかしい奴なんじゃないか?
ふらふらと家を出て、それから無意識のうちにここにたどり着いたというだけなのかもしれない。

自分で自分のやっていることが分からないのかな、きっと。

それでも彼を元の家に帰さなきゃいけないと思いつつも、もう日が暮れて周りが薄ら夜の色に変わっているのを見て、やる気が無くなってくる。

目の前の青年はまだ怯えているようにうつむいている。
赤の他人を自宅に上げるのは気が向かないが、この場合は仕方ないのかもしれない。

それに、長い間バス停の近くで男2人向かい合っているって、変だよな、きっと。