「私、次で降りるので…すみません」
軽く頭を下げた。男の服装が目に入る。
上下灰色の、いわゆるスエットであった。
こいつは若いニートなのだろうか?
今帰宅ラッシュの夕方に、フォーマルでない格好の人は目立つ。
バスが停留所で止まった。
会社の重いカバンから財布を取り出し、さっさとお金を払ってバスを降りた。
その後ろから、オレと同じように降りて来た人がいる。
ちらとそちらを見やると、
…彼だ。
目が合うと、その場で立ち止まり下を向いてしまった。
バスのドアが無情にも閉まり走り去ったことから、彼はお金を持っていたのだ。
いや、普通お金を持っていなければバスに乗らないだろう。そんなふうに考えるのは相手に失礼だ。
今気付いたが、男性は重そうなショルダーバッグを肩にかけていた。