そんな夏のある夜。



「散歩しない?」



母に連れだされた。
何か、嫌な予感がしていた。

そして、それは突然訪れた。




「3月に、パパの実家に引っ越すことになっちゃった。」




雷を落とされたような衝撃、とはよく言ったものだ。

その事実が受け入れられなくて、私は思わず俯いた。


元々転勤族だった私の家。
けれど最終的に落ち着く先は父の実家だと決まっていて。

だけどそれは…もっとずっと先のことだと思っていたのに。



「ちょうど明海の進学もあるから、丁度いいって話になったらしくてね。」



そう言う母の声などもはや耳に入って来ない。


上を見上げると、満天の星空が広がっていた。

泣きそうになると上を見上げる、私の癖。
それも今は役に立ちそうにない。


現に、どこかのドラマの女優のように瞬きするたびに涙が零れ落ちる。


なかなか止まらないそれに戸惑いながらもふと横を向くと、伊丹が見えた。

そっか、見えるんだ…。



灯りの灯る塾に、今すぐ駆け込みたくなった。

先生…私、どうすればいい…?


ただの勝手な片想いなのに、図々しくもそう、先生に心の中で問いかけた。