恐る恐る見上げると、ニコニコ顔のアツ君。ああっ、笑ってる!やっぱりそういう風に思うのは私だけ?






「クスクス♪じゃ、おあいこってことにしよ」


「おあいこ?」

「うん。ドタキャン一回づつでおあいこ♪」





優しく肩を抱いて頭を寄せてくれる。フワリとアツ君の香り。いい匂い………





「そっか。そだね」





アツ君の言葉で、心のどこかに引っ掛かっていたものがポロッと取れた感じ。さらっとスマートな対応が気持ちいいな。


ニコッと笑った私を見てアツ君もほっとしたみたい。

ポンと私の頭を撫でながら、携帯を取り出す。





「よしっ、じゃあうちまで送る。すっかり遅くなったな~。彬良さんの雷覚悟しよ……」




送ってくれる前にお兄ちゃんの携帯に電話してくれるらしい。ふーっと一息付いて耳に電話をあてる。





大丈夫だよ。何か言われたら私がフォローする。お兄ちゃんなんかに負けないもん!






「あ、もしもし篤です。……はい、こんな時間まで真琴を拘束してすいませんでした。今から送ります……はい…はい…えっでも…」






なに?どうしたの?







「………わかりました。はい」

「何か言われたの?」





納得いかないような複雑な表情で電話をきったアツ君。







「今帰って来られるのは困るって」
「…え?」



いつもならすごい剣幕で帰って来いって言うところ。さらにアツ君の口から信じられない言葉が………



「電話の向こうでさ女の声がした。彼女来てるんじゃないの?」




彼女!?いる訳ないよ。だって毛むくじゃらだし、怖面だし、ガタイいいし、武骨だし融通利かないし甘い物好きだし…………でも。
優しいし、お願い事は多少無理しても叶えてくれちゃうし、笑うとかわいくて。



やっぱりいいお兄ちゃん。それでもいいよって言ってくれる女性はいるかもしれない。