あの時、初めてお父さんとお兄ちゃん以外の男性に抱き上げられた。
周りはみんな知らん振りだったのに、助け上げてくれたあの人は、一緒に泥水被っても笑顔だった。
-そうだ…アツ君の香水の香り。一緒だ-
どこかで嗅いだ覚えはあった。
甘くてスパイシーな大人の香り。あの時は女物の香水と雨の匂いに紛れて、一瞬しか捉えられなかったけど。
頭の片隅でモヤモヤしてたものがすっきり晴れた気分。
「そっか……そっかぁ」
なんか嬉しい。やっぱりアツ君、優しい人だね。服がずぶ濡れても、髪の毛のセットが崩れるのも気にしないで助けてくれた。
アツ君でよかった。
大好きだよ。
「マコ笑った」
目を細めるアツ君の笑顔が好き。
坊主頭も似合ってる。
前の茶髪のフワッとしたイメージのアツ君もカッコよかったけど。
坊主頭にキリッとした眉毛と通った鼻筋と若干のタレ目具合が何だかとても色気があって。
それに、学校帰り以外でこうやって会うのは初めて。
黒いシャツの襟を立てて、ジーパンにウォレット。私服も格好いいなぁ。坊主にしたってアツ君やっぱり目立っちゃうね。
「出会ったのがアツ君でよかったなぁ。私、もっとアツ君が好きになった」
「これからは沢山我が儘言ってよ。行きたいとこも食べたい物も俺が叶えてやる。マコが喜ぶ顔見たいからさ」
アツ君近寄って来て背中からすっぽり抱き締められた。
「だから俺のお願いも叶えて?」
「え……っと、何?私に出来る事なら」
-ゾクッ……-
首筋にアツ君の吐息と鼻の感触。
「マコ良い匂い……赤ちゃんの肌みたいな甘い匂いする。こうやって俺に抱かれるの……嫌じゃない?」
アツ君が囁く度、首筋を発信源に全身に電気を通したみたい。
体が熱くなる。
「嫌じゃ…ないよ。でもすっごい心臓が…破裂しそう」