あるところ。それは――――――
髪の毛。
昨日まで、ちょっと長めに伸ばして、ミルクティブラウンに染めて、フワッとセットしてた。
それを朝イチで美容院に行って、黒く染め直して………坊主にしたんだ。
さすがに馴染みの美容師に止められた。
でも俺の決心は固かった。だからせめてもと右の側面に〔ソリ〕入れられちゃったけど。
マコが地味なのを気にして不安になるなら俺が地味になればいい。
俺が目立つなら目立たなくなればいいんだ。
「しかし思い切ったなぁ」
リビングのソファにふん反り返った彬良さんに頭を撫でられる。
「こんなの大した事じゃないっすよ。それより……すいませんでした!マコ泣かせちゃって。もう二度とこんな思いはさせません」
深々と頭を下げる俺。コーヒーを運んで来たマコがそれを見つけて慌てて止めに来る。
「やだ、ちょっとアツ君!?なに初対面の人に頭下げてるの!?」
「初対面じゃねぇよ。彬良さんは俺の姉貴の知り合いで。見せて貰ったマコの写真に一目惚れしたんだから」
「えっ、そうなの?」
彬良さんは「見せなきゃよかった」と悔しそう。
-チリリン……-
「な~ぉぅ……」
ふと鈴の音が戸の方からしたかと思うと、足下に絡み付く感触。
見ると白い体に耳と手の先と尻尾がベージュの可愛らしい猫が足の間を体を掏り寄せている。
「あっ、ごめんなさい!黒いパンツなのに…おいでミイヤ」
「いいよ。猫好きだし…飼ってたんだね」
マコが猫を抱き上げる。
「うん。一か月くらい前かな。帰りに怪我してるの見つけて連れて帰って来たの」
-あ、あの時の猫?-
俺が絶対マコだって気持ちを決めた出来事。
「足挫いて、ちょっと衰弱してたけど、あとは擦り傷だけで今はほら。元気になったよ♪」
あ、マコが笑った。