『かわいいって言ってるのに』
「……言ってないじゃん」
『かわいいよ』
「うっ、さい!」
『ふは、どもった』
噴出した声に、きゅうんと私の心臓が音を立てる。バカにされたのに、バカにされたけど。だって好きなのだ。
早く会いたい。
『おれも』
「は?」
『はやくあいたい』
「え、え、うそ、今わたし声に出してた?」
『うん』
は、恥ずかしい……!
『ふっ、ばぁか』
「……うっさい」
……けれど、なんだか、聞こえてくる声が、どこか嬉しそうで、だから。
『明日、な』
「……うん」
蕩けてしまいそうになる。
脳内で炭酸が弾けているのか、柔な心臓が鼓動に合わせて気泡を押しつぶしているのか、どちらにせよ、息もできないくらい。
この声に、呼吸する術を奪われる。
『おやすみ、ちゃんと寝ろよ』
「わかってる、……おやすみ」
ぷつり、静寂が再び部屋を満たした。
トクトクと流れる鼓動が心地よくて。
柔らかな空気に包まれているよう。
携帯電話をきゅうっと握って、目を閉じた。
ああ、明日は空港に迎えに行って、時差ボケでぼんやりする姿を笑って、そのあとぎゅうぎゅうに抱きしめてあげようと思っていたのに。
しゅわしゅわ、パチパチ。
なんだか、また、眠れそうにない。
end.