歌声、チェロ、ヴァイオリン、ピアノの音と順番に、スピーカーの中に吸い込まれて消えていった。

結局、武は片方の目から一筋の涙を流し、千華は武の膝の上に頬をつけて、ジーンズを湿らせていた。

部屋の中はいっさいの沈黙に包まれていて、千華の口から漏れた熱いため息が空気を震わせた。

「もう一回聴く?」

千華が言った。

「いや、いい」

武が呟く。

「これって、俺の部屋でも聴けるのか?」

「うーん、聴けないこともないけど……」

武の膝の上で体勢を変えて、考え込むように千華が宙をにらんだ。

つられるように武も、千華の見つめる先に目をやる。

ただ武の目に映るのは、いつもとなんら変わることのない、少し汚れた天井のシミだけだった。