「きれいな曲だね」

うっとりするように千華が囁いた。

「ああ」

武は自分の口から出た呟きと同時に、頬に温かいモノを感じた。

「どーしたの?」

千華がびっくりしたように武を見る。

「わからない」

武の瞳からは涙が一筋流れていた。

「悲しいの?」

「わからないけど、気がついたら出てた」

武は涙を拭うことなく呟いた。

せっかくの涙だ、拭いてしまうのはなんだかもったいないような気がした。

行きかう言葉に邪魔されることなく、歌声がやさしく耳に響いてくる。

「きれいな曲を聴いてると、泣けてくるのかもね?」

そう言う千華の瞳からも、いつのまにか涙がこぼれていた。