「これで満足か?」

自分で想像していたよりも低い声が出た。

「へー、本当だったんだ。それにしても不思議だねー」

由加里は手品の種を探すかのように、武の左腕を取って傷のあった場所をあらゆる角度から眺めた。

「触んないでよ!」

その手を千華が勢いよく振り払う。

そして武の手からはさみをひったくると、レジ台の上に叩きつけた。

はさみはパンッという大きな音をたてて、刃先を中途半端に開いたままで固まった。

切り取られたその空間は、まるではさみの標本のようだった。

「もう、かえろ? 洋服なんていらないから」

千華は武を見上げそう言うと、来たときと同じように腕を引っ張って入り口を抜けた。

武は引きずられるように歩きながら、千珠の顔を目で追った。

どうやら千珠は放心状態にいるようで、大きな目を見開いて一点を見つめ続けている。

その口は、何かを叫ぼうとしたままの形で、固まってしまっていた。

そんな千珠の顔を見て、武のイライラは少しだけ納まった。