「どうかされました」

ふわりと風が髪をもてあそんでいく

「あの、…今度お昼ご飯ご一緒にいかがですか」

ん?

んん?

ふと見上げた空は綺麗な快晴

「ああ、いや、いやならいいんです。ただ…」

「あ、別に嫌ではないんですが、その…」

彼氏がいるんです

しかもそいつは医療界ではかなり名の知れた、どこにどんな人脈を持っているかわからない男なんです

なんて言えたらどんなに楽だろう

これは医学書よりも先にこういう時の対処法でも学んだ方がいいかもしれない

邪険ならず、けれど後腐れなく断る方法を

なんて考えている時点でかなり自分失礼だ

「立花先生」

どうにかして断る、しか選択肢が浮かんでこない自分に気が付いて静かに眉をひそめていると

怪訝そうな顔がほぼ同じ高さからうかがってくる

ああ、だから

ふと思い浮かべるのは、あの見下ろしてくる漆黒の瞳