「しるふ、あの患者、気をつけろよ」

帰り道、肩を並べて歩きながら見上げる漆黒の瞳

「あの患者?」

「先週も来てただろ」

「ああ、島田さんですか。でもただの風邪ですよ、きっと」

重篤な病気じゃないと思いますけど

見下ろせば、見上げてくる無邪気なブラウンの瞳

かすかに苛立ちを覚えたのはその鈍感さ故と口にしないといけないほど心配している自分

「誰が病状の話をしたよ」

「じゃあ何の話なんですか」

はっきりしてくださいよ

声音は就業時のものではなく、彼氏のそれだ

「…どうしてそこまで鈍感なんだ」

はあ、とため息交じりにつぶやいた海斗に

「失礼な!私鈍感じゃないですよ!黒崎先生の方がはるかに鈍感です!」

抗議を飛ばさずにはいられない

だって、海斗の鈍感さと言ったら類を見ない

のらりくらりと言い寄ってくる令嬢たちを交わすその姿はもう医局の定番だ

「まあ、いい。俺が鈍感だろうが、しるふが鈍感だろうがどっちでも」

そんなことこの際問題ではないのだ

「良くないです!患者さんからのアプローチに気づかない黒崎先生に鈍感とか言われたくないです!」