立ち上がりざま、何気なくやった視線の先に外来診察室から出てきた私服姿の男が目に入る

3番外来

確か今日はしるふが担当していたはず

そして自分の記憶力を信じるのならあれはこのあいだも来ていた

その患者の眼に一瞬名残惜しそうな色が浮かんだのを海斗は見逃さなかった

ああ、どうしてこういう時だけ気が付いてしまうのか

いつもは意図的に振れないようにしているセンサー

ふ、と嘆息しながら思うのは

きっと海斗の心労など、あの患者の思いなど微塵も気づいていないあの姫君

いや、あの鈍感娘

いい年こいて何振り回されているんだと

冷静な自分の声がした気がした

けれどその声を無視しても、無視できてしまうほど

しるふには落ちている

それがわかるからなおのこと面白くない

どうしたもんか

それはあの姫君に向けられたものか、はたまた自分に向けられたものか