ので、そんな会話をした2週間後

外来診察室の中で島田の名を見てもまだ風邪が治らないのかと眉を寄せただけで

その忠告を思い出すことなんてなかった

あまつさえ一瞬でも脳裏をよぎることすらしなかった

「島田さん、どうですか、調子の方は」

「いや、ちょっとのどの調子がまだ悪くって」

「この時期の風は乾燥もあって長引きますからね。こじらせると気管支炎になる方もいるので気を付けてくださいね」

マスクをしてるだけでもずいぶん違うと思います

にっこりとほほ笑めば、少し島田が照れたように笑った気がした

「先週と同じ薬出しておきますね」

「はい、あ、あの立花先生」

カルテから顔を上げれば島田の黒い瞳が真っ直ぐに見つめてくる

あ、黒崎先生と同じ色

でも黒崎先生の方が綺麗だな

なんて思ったことは内緒だ

「どうしました?」

「あ、いや、なんでもないです。ありがとうございました」

歯切れ悪くそう言って軽く会釈をする島田にお大事に、と笑顔を向ける

その笑顔に再び照れくさそうに笑いながら島田は診察室を後にした