「黒崎先生」

相変わらず気配がないですね

少しはこっちの心臓も慮ってください

突然立っていた海斗に少し驚きつつもいつものことだと慣れ始めた自分に気が付く

前世はそれは優秀な忍者だったのではないかと思い始めているこの頃だ

「あんまり近づきすぎるなよ」

見下ろしてくる漆黒の瞳と唐突に放たれた言葉

何の脈略もなくじっとその瞳を見上げる

就業中は何もなかったような顔をして接してくるというのに

一度外に出れば下の名を呼んだだけで少し硬くなるのだから

器用なのか不器用なのか

その本性を測りかねる

「患者と仲良くなることはいいことだが、第一線はしっかり引いておけ」

いいな、と指導医のころの口調で告げて階段を上がっていく

「黒崎先生だって十分患者と仲いいと思うんだけどな」

その背を見送りながら、ぼそっとつぶやく

でも、海斗のそんな忠告など未だに手に持っていたカルテに気が付いた瞬間

どこかに吹っ飛んでしまった