担当分の外来診察を終え、引き戸式のドアを開けて診察室を後にする

向かい側にあるICUに視線を送れば、担当患者である男の子の相手をする海斗が目に入っていくる

子供はよく人を見ているものだと研修医時代に痛感した

大人でも少し怖いと思う海斗の雰囲気を、あれはただのフェイクで

その実本人はとても優しい人だと分かっているらしい

小児科の子供に海斗はとても人気だ

海斗自身もうまい具合に相手をし、あしらっているものだから

海斗には下に少し年の離れた妹か弟がいるものだと思っていたほどである

「あの、立花先生」

「島田さん」

呼ばれて振り返るといたのは先ほど外来で診察した患者だった

年齢は28、普通のサラリーマンで咳が一か月ほど抜けないのだそうだ

どうかされました?と口元に笑みを宿すしるふに

「来週の同じ曜日に来ればまた立花先生に担当してもらえますか」

少し間をおいて、意を決したように島田が口を開く

「ええ、基本的には。受付で担当希望を出すこともできるのでよかったらご利用ください」

なんて黒崎病院の宣伝も兼ねてみる

「本当ですか。よかった」

安心したように笑って島田は会釈して去っていく背を見送っていると

「立花」

背後から聞きなれた耳触りのいい声がかかる