「立花せんせー、外来お願いしまーす」

「あ、はーい」

看護師に呼ばれて、机の上を軽く片付けてから医局を後にする

その背を無言で見送った医局長・神宮寺晶は湯気の立つコーヒーを口にしながらそっと微笑んだ

やはり医局はこう忙しくとも穏やかな雰囲気が流れていなければ

一つくらい大きな花がなければやっていけない

しるふを見つけてきた自分を褒め称えてやりたい

彼女がもたらした影響は一つだけでなく

あの黒崎海斗から今にでも医療界から去ろうとする気配が消えたことも大きな変化だ

ああ、だから早く帰ってきなさい

遠くに飛んで長い同志を思ってそっと天井を仰いでいると

先ほどしるふが出ていったドアが開き、同志の若いころにそっくりだと神宮寺は思っている(決して口にはしないが)

黒崎海斗が入ってきた

夜勤明けの仮眠明けらしい

「おはよう、黒崎先生」

「おはようございます」

コーヒーを落とし始めたその背を見つめながらそう言えばあの同志も今は亡き妻に出会うまで少しとがっていたなと

血は争えないものだとふと思った