「医局長にからかわれたな」

「……黒崎先生が悪いんですよ。何も言わずに行くから」

じっとりと睨みつけてくる瞳が少し揺れている

「泣くなって」

「泣いてないです!!」

海斗が帰ってきたことがうれしくて、でも自分だけこんなに焦って

そんなにも海斗の存在が大きくなっていたことが悔しい

「黒崎病院から離れるわけないだろう」

風が運んでくるのは、低い落ち着いた声

そう、黒崎病院から、この場所から離れるわけがない

約束したのだから

あの真っ直ぐなブラウンの瞳がそう望んでいたのだから

たとえどんなに長い月日が流れようとも

医者のまま待つと決めたのは、自分

「黒崎先生!!」

そよぐ風は、少し塩辛い

そしてほんのりと温かい

再び見上げてきたしるふの瞳は、あの頃の、悔しげに唇を噛んで睨んできた1年前を思い出させる

今思えばあの時すでに始まっていたのかもしれない

そう思って、懐かしさにそっと瞳を細めた