さらさらと頬を撫でていく風は、少し塩辛い

春の穏やかな波と風

ゆっくりと規則的に引いては返す波をぼんやりと眺める

「なんで」

先ほどから口から出る言葉はずっと同じ

抱えた膝にそっと顔をうずめる

「黒崎先生の、ばか」

どうして手を伸ばすとすり抜けて行ってしまうのだろう

捕まえたと、隣に居ることを許してくれたと思ったのに

あの時、あの約束をした日

今までで一番距離が近いと思っていたのは、自分だけなのだろうか

あの優しげに見つめてきた瞳は、錯覚か

「ばか」

もう知らないんだから

泣いてなんかやるもんか

始まりすらしなかったこの恋のために

こんなところで泣いてなんてやらない

睨み付ける水平線のその先

ふと視界にかすめる黒い影

「……くろ、ざきせんせい」

視線の先に居るのは、アメリカに跳んだはずの

約束を放り出していったはずのその姿