アルディスは、一人でそこにいた。
(何──?)
上を見ても、下を見ても真っ暗闇。探しても何もなく、どこまでも変わらぬ空間。
(誰か……あっ!?)
人の姿を求めたその瞬間、彼女は足元にいるその存在に気が付いた。
(……男の、子……?)
膝を抱えてうずくまり、彼女を──正確には、彼女の背後にあるのであろう何かを凝視する、七歳ほどの少年。
綺麗な黒髪と、どこか見覚えのあるような端正な顔立ち。そして、それに似合わぬ、激しさをたたえた瞳──。
(何を、見ているの?)
彼の視線に誘われるまま、アルディスも背後に目を向ける。
(……あれは?)
そこにいたのは……礼服に身を包み、和やかに談笑する、王候貴族らしき人々の姿。
そして……。
(えっ……?)
その足元に、みすぼらしい服に身を包む、貧困に喘ぐ平民の姿。
(何……?)
もう一度、少年の方へと視線を戻してみると。
そこには、"睨んでいる"という言葉では形容出来ない、"憎む"とでも言った方が相応しいような、そんな厳しい瞳があった。
思わず視線を奪われ、底のない漆黒に呑まれていくような感覚に襲われる──
「──!」
飛び起きた。
突然の朝日の眩しさに、頭がちかちかする。
きょろきょろと辺りを見渡すと、見覚えのない簡素な部屋の内装が目に入った。
まだはっきりしない思考を動かすと、昨晩、確かにこの部屋で就寝した記憶に辿り着いた。