アルディス……いや、リリアスは、馬車が 皇都の外れにある離宮につくと優雅な足取 りで立ち下りた。


「これはリリアス嬢。本日も麗しいことで 」


彼女の姿をいちはやく見つけ、社交辞令と も口説き文句ともとれる挨拶を述べながら 寄ってきたのはグランディア公爵だ。


彼古くから王家に仕えてきた歴史ある一族 の一員である。


「お久しぶりです、グランディア公爵」


リリアスは静かに頭を下げた。


「誠にその通りだ。しかしお変わりはない ようで」


「おかげさまでありがとうございます」


公爵はそう言う彼女を見て微笑んだ。一見 人が良さそうに見えるが、細めた目は鋭く 冷たい。


この男は誰に対してもこの調子だ。何を考 えているのか、敵なのか味方なのかも掴め ない。


(油断してはならない……)


そう思う彼女の瞳もまた、鋭い光を帯びた 。


二人の間に流れる、緊張した雰囲気。


それに気付いたのか、彼は不意に目の力を 抜き、こう言った。


「いつまでもこうして外に立っているのも 馬鹿らしい。中にご案内しても良いですか な?」


そう言われてはっとして、リリアスも力を 抜いた。


「もちろんです、公爵」


頷いた公爵の後に続いて、リリアスは会場 に足を踏み入れた。


晩餐会場である大ホールは、いくら離宮と いえども本宮の大広間にひけをとらない規 模をしている。


広さは皇都ロアルメニアにすむ者を楽に全 員収容できるほどで、高さは町の中心にあ る時計塔に匹敵する。



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