「どうぞこちらへ」


そう言って案内されたのは、趣味の良い調度品で満たされた、落ち着いた感じのする広い応接室だった。


「ありがとうございます」


リリアスは、執事の男に示されるまま、ふかふかした皮張りの椅子に座る。


すると、見計らったように、先ほどとは別の侍女がお茶とお菓子を持って部屋に入ってきた。


「どうぞ」


促されるまま、綺麗な模様が描かれたカップを手に取る。中の茶色い液体からか、ほのかに甘い匂いが鼻孔をくすぐる。


嗅いだことが無い匂いだ、とリリアスが思っていると、それを察したように執事の男が言った。


「……そちらは、シラハンから取り寄せた茶葉で入れた紅茶になります」


「……そうなのですか!」


リリアスは素直な反応をしてしまう。


シラハンは、ウラルダスで有名な高級茶葉の産地だ。輸入される量は少なく、関税を通すとかなりの値段になってしまうので、皇宮でもこのお茶は滅多に見ない。


香りを楽しむふりをして、注意深く匂いをチェックし、毒などが入っていないか警戒する。


不審な点がない事を確認してから、彼女は一口、口に含んだ。


「……美味しいですわ……!」


思わず笑みがこぼれる。口の中にふわっと広がる上品な香りは、ものすごく彼女の気に入った。


「それは良かったです」


本当に良かったと思っているのかどうなのか、腹の見えない執事を眺めながら、リリアスは冷静に考える。