穏やかであったはずの空模様は、いつの間にか強くなっていた風に運ばれてきた雲に光を遮られ、暗く、どんよりとしたものに変わっていた。
不穏なものを感じ、昼食をとりつつ気にしていると、瞬く間にぽつぽつと滴が垂れてきた。
やがてそれは激しい風とともにザァザァと音をたて、傘をささずに歩くのが困難になるほどに激しくなっていく。
「……嘘だろ……。さっきまで雲ひとつなかったのに……」
驚きを隠せない表情のカルロが呟いた。
「だから言っただろう。外した事はないと」
その横でこころもち満足げな顔をしてそう言ったのはブレンダである。
「すげー、ブレンダ。感心した」
心からの称賛の言葉を送るカルロ。
「……感心してくれるのは良いが、名前で呼ぶのはやめろと言っている」
複雑な表情のブレンダに、カルロは不満げに言い返す。
「えー、何で?もう見ず知らずの赤の他人じゃないんだし、仲良くしようよブレンダ」
「馴れ馴れしい!……名前で呼ばれるのは慣れてないんだ」
「まあ、そのうち慣れるよ、ブレンダ」
カルロがそう言いながら、ブレンダの肩に左手をのせようと手を伸ばす。
その動きを認識した瞬間、ブレンダは脇を締めて右肘を真後ろに勢いよく下ろした。
うぐっ!っという妙な音を口から発しながら、鳩尾に攻撃を喰らったカルロは情けなくしりもちをついた。
「触るな!」
藤色の瞳に怒りをたたえたブレンダがカルロをまっすぐ見下ろして一喝。
「ブレンダ……容赦がなさすぎだよ……」
相変わらず腰を地に下ろしたままカルロが呻く。
ブレンダは腕を組んで彼に背を向けた。