――――コンコン。


その音に目を開けると、すでに開いた扉に寄り掛かって腕を組んでるアニキが映った。


「……ああ。悪い……本気で寝過ぎた」


重い頭を軽く振って体を起こすと、アニキがドアを閉めて立ちなおす。


「……アキラちゃん。今、帰ったよ」
「……そ」


っていうことはもう夜か。やばいな……。アイツのこと、あのままだった……。


ギシッとベッドに手をついて立ち上がる。
そのままアニキを横切るときに、肩に手を置かれて足が止まった。


「……ちゃんと繋いどかないと……ダメだぞ」


――わかってる、そんなこと。

だけど、アニキみたいにしょっちゅう『優しい言葉』ってやつを口にするなんて俺には無理なんだよ。


「……どうせもう来ないだろ、アキラ」
「……『また来る』って言ってたけど」
「――――ちっ」


舌打ちしたのはアキラに対してじゃなくて、自分自身に。

アキラが来る来ないに関わらず、アイツが、俺が、ちゃんとしてれば済む。簡単なことだ。


『めんどくせぇ』。


こういう小さなことが面倒だった。
疑って、疑われて。嫉妬して、嫉妬されるそんな、当たり前の感情が。


だけど、忙しなく変わる表情と、人(俺)のために泣くアイツが特別だって認めちまったから。


「……アニキのそういうとこ、少し分けて欲しいくらいだ」


そうしたら、ちょっとはアイツが笑う時間、増えるんだろうけどな。