「早く」


「な、なんで理由言わなきゃいけないんですか……っ?」



振り絞ってやっと出た声は震えていて。


声だけでなく手も震えてきた。


気づかれたくない。
早く大上くんから離れたいよ。



「ふーん……俺が恐いんだ」




少し弱くなった声には気づかないフリ。


そんな演技したって無駄だよ。
騙されないもん。



「あー!大上こんなとこにいたのかよ。来ないかと思ったー」


「おう。寝坊しちゃったんだわ」



そんな会話が耳に入ってきて恐る恐る顔を上げる。


壁についていた手はズボンのポケットに突っ込まれていた。