「そのお様子ですと、まだお聞きになってないようですね…」
静かに走り出す車の中で、千堂さんは言った。
「あ、あの…」
「はい?」
「千堂さんは誘拐犯じゃないですよね?」
「………」
あ、あれ…?
もしかして…
「信じ難いことだと思いますが、今のお嬢様は追われる身になったのです」
「追われる身って…?」
「そうですね…
私からは大まかなことを申し上げることしか致しかねません」
後部座席に座っているわたしからは、運転している千堂さんの表情は見えない。
「私が仕える一ノ瀬家と如月様とは長いお付き合いになります。
言い伝えはご存じですか?」
「い、いえ」
「そうですか。
私からは一ノ瀬家に代々伝わる言い伝えを申し上げます」
そう言うと千堂さんは静かに話し出した。