言われた通りに玄関に行くと、家の前に一台の車が停められていた。
白に近い桃色の花びらに反したような、そんな漆黒の車。
「如月さくらさん、でいらっしゃいますね」
わたしは声のする方を向いた。
「私、千堂と申します。
お嬢様をお迎えに参りました」
千堂と名乗ったのは、黒いスーツに身を包んだ老人。
品の良さそうな人だった。
「あの、わたし…」
普通に考えればおかしい展開なのに。
疑問を抱きつつも抵抗できずにいるのは、いつもは穏やかなお父さんが真剣な顔をしていたからだと思う。
「時間がありません。
詳細は後程、今はお乗りください」
こんなオープンな誘拐はないだろうし…
お父さん、それにこの人が悪人だとは思えない。
後で説明してもらえるなら…
開かれたドアに導かれるように乗った。