「咲いちゃいましたか…」
「お父さん?」
キッチンに戻ると、お父さんが悲しそうな顔をしていた。
「さくら」
いつもは柔らかいお父さんの声が、少し張っていた。
「うちには古くから言い伝えがあると言いましたね」
「…うん」
「17才を迎えた時、庭の桜が咲いているということは…」
今まで言い伝えなんて半分冗談だと思っていた。
「さくらも、選ばれたのですね」
「…え、“選ばれた”?」
「きっと、もうすぐ来るはずです」
「え?来るって、何が?
私が何に選ばれたの?」
“お父さん”の言葉が出せなかったのは、玄関のチャイムが“誰か”の到着を知らしたからだった。
「さくら、行きなさい。
きっとお父さんより詳しいはずですから」
無事に帰って来てください、最後にお父さんはそう言った気がした。