ゆらゆらと視界が揺れる・・・


「ぐあっ・・・!!!」


朦朧としていた意識が体中に広がる。
 
あまりの激痛で、現実に引き戻された。


痛みを堪えながら目を開けると、今にも口から火を吐き出しそうな火竜が目の前に聳え立っていた。


--あぁ、そうだ・・・


エンシェント・ドラゴン(古代竜)を見つけて、魔法を仕掛けたんだっけ。

詠唱を唱え終える前にドラゴンに見つかって、周りの地面ごと吹き飛ばされたんだ・・・


背中に当たる岩のゴツゴツした硬さと口内に広がる鉄の味を感じながら目だけを動かして周囲を見渡してみれば、少し前に自分が立っていた場所は不自然なほど抉られた地面が波を打つ様に伸びていた。


自分の前に立つ翼竜は、硬い深紅の鱗で覆われた体をゆっくりと動かし、正面を向くと重そうな尻尾を揺らしはじめた。

その体は 山一つ分はありそうな大きさで。

4枚の大きな翼と、足には鋭い鉤爪。

長い尻尾の先は、二つに分かれていた。


《エンシェント・ドラゴン》

それは、普段足代わりに使われている竜と比べて明らかに大きく、古の時代から現在も生き続けている幻の竜で、その姿を見る事も奇跡に近い。

圧倒的な強さと生命力は、神に最も近い存在として知られている。


『愚かな人間の子供よ その拙い魔法陣で我を支配しようとは命知らずな事よ。我が炎で焼き尽くしてくれるわ!!!』


忌々しげに言うと、火竜は喉に溜め込んでいた炎を一気に吐き出した。


---ダメだ・・・指一本動かす事が出来ない


自分の身に迫ってくるそれを眺めながら、死を覚悟した時だった。