桜の様な人だった。
儚げで、美しく、いつの間にか散ってしまう。
もう春がきても戻っては来てくれないけど。





01








何故この仕事についたのか、その日はそんな事を考えていた気がする。
なんどなくか、大学の時に。父親が医者だからか、はたまた母親が教師だったからか、その真ん中のこの仕事についたのか、真ん中って言っても微妙なものがあるけれど。


「ええっと、去年までいらっしゃった麻生先生がご結婚され退任されたので、今年度から桜宮高校の保険医になります。高野翔です。まだまだ至らぬ所はありますが、みなさんと一緒によい保健室にしていけたらいいと思ってるのでよろしくお願いします。」


男の保険医なんて珍しいね。
なんて顔してる高校生を目の前にニコリと微笑み、校長に会釈し席に戻る。
桜宮高校。ここらへんではソコソコ名の知れた進学校だ。とはいえ高校生、ラッキーで入れたような短いスカートの子も今時カッターシャツ出して腰までズボン下げて歩いてる奴も居るだろう。きっと3日もすれば、翔ちゃんなんて呼びだす生徒も出てくる。今まで通りなんなくこなしていけばいい。一生この学校で働くわけじゃない。
新任の言葉が終わった俺は安堵して外を見ていた。校長の言葉なんか生徒でさえ聞いていないのにどうでもいい。高野先生の息子さんだからな、さぞかしやりにくいだろう。外には桜。今日がピークかな、もう少ししたら葉桜になってしまうのか、なんで桜は毎年こんなに暖かい気持ちにしてくれるんだろう。他の事がどうでも良くなるほどに、何とも言えない、懐かしいような気持ち。
その後は式が終わるのが今年はあっと夕間だった気がする。




「あ、高野先生。」
「はい、ってお前かよ。」

職員室から保健室に向かう途中、生徒に声をかけられたのかと思ったらそこに居たのは、高校の時の同級生で今はこの学校で英語教師をしている松原だった。


「いや、まじお前と一緒の高校で働くなんてびっくりだよ。」
「ふはは、本当にな。松原二年の担任なんだろ?高校球児で毎日早弁してたお前からは想像つかねえよ。」

松原は高校のアイドルだった。そのルックスはモデルやアイドルに居てもおかしくなく、しかも野球部のエース。残念ながら甲子園まであと一歩とゆう所で敗退。その日学校中の女子が松原の為に涙したのだ。そして成績も優秀で何もかもが完璧な男だった。きっとこの学校でもアイドル扱いされてるに違いない。


「実はな、その、俺のクラスの生徒の事で相談があるんだ。」

松原の顔が曇る。
なんとなく予想はつく。保健室登校の生徒がクラスにいるんだろう。珍しい事ではない。

「任せろよ。俺頑張るからさ。」


そう言って微笑むと松原の顔も緩んだ。
松原のクラスでいじめがあるとは思えないが、きっとその生徒にも思春期ならではの何かわだかまりがあるに違いない。いじめじゃなくても個人的に何かされてるとか、クラスに馴染めないのかもしれないし、そんな時に力になるのが俺の役目でもある。カウンセラーの先生と協力し生徒を社会に出しても力強く生きてもらう為の手助けだ。
そんな心の小さくなってしまう時期は事は誰にでもある事だ。


「明日連れてくるわ。」
「はいよ。近々飲みにいこうぜ。」


了解、と言って手を降る松原。
先生らしくなりやがって、と鼻で笑ってやる。
さあ、どんな子なのか、俺はその時あまり深く考えてなかった。その子がどんなに大事な存在になろうか予想さえしてなかった。もう一度この日に戻ったとしても俺は同じ道を選ぶだろう。後悔なんてしていない。出会えて良かった。
今日は最期の人に出会う一日前の話。