「瑞香、久しぶりだね」



にこりと笑いかけたのは麻美。彼女の視線は私ではなく、私の周りを気にしているように感じられてしまうのは気のせいではないだろう。



「麻美、今日は海棠さんは一緒じゃないよ」

「え? ああ、そう……、今日は彼だけ仕事?」

「ううん、東京に帰ったの」

「どうして? 何かあったの?」



麻美が目を見開いて問い掛ける。
何にも知らないような顔をしているけれど、麻美が誰かに話したから海棠さんがここにいると里緒さんが知ったんじゃないか。



「事務所の人が彼を尋ねて来たの、彼を探して。彼が何にも言わずにここに来てたから」



ひと息で強い口調で言い切った。ちょっと嫌味を込めて。
すると麻美は静かに目を伏せて、唇を噛んだ。



「瑞香、もしかして私が彼のことを事務所に知らせたとか思ってる?」

「うん……、違うの?」

「違うよ、私は誰にも話してない、なんて言っても信じてもらえないかもしれないけど」



大きな溜め息を吐いて、麻美が腰に手を当てる。苛立ったように口を尖らせた顔は不機嫌そのもの。



余計なことを言ってしまったと思ったけど時既に遅し。後の祭りかも。