車が停まるのを待ちきれない彼が、ドアを開けて飛び降りる。停まる寸前だったからよかったものの、危なっかしい酔っ払いだ。


それなのに堤防の隙間を抜けて、漁船の停泊する港へと向かう足取りはしっかりしていて酔っ払いらしくない。


私も車から降りて後を追う。また海に落ちたりしたら厄介だから。


「んっ、ああ……気持ちいい」


真っ黒な海に向かって、彼が両手を挙げて伸び上がる。漁船の間から篭った波の音が僅かに聴こえてくる。


何にも見えないのに、お昼間の方が綺麗だと思うのに、何が気持ちいいんだ。私は堤防の側から彼の様子を見ていた。


一頻り海を眺めた彼は満足したのか、軽やかに戻ってくる。


「すっきりした、酔いが醒めたよ」

「そんなに気分悪かった? 結構飲んでたみたいだけど、あんまり顔に出ないんだね」


彼の言うとおり、本当にすっきりした顔をしている。吐きそうな訳じゃなくて、単に風に当たりたかっただけなんだ。


「ああ、でも坂道下ってる時はマジで気持ち悪くなりそうだった」

「そう、ごめんね。運転が悪かったのかもね」


気に障る言い方だ。それって私の運転が悪いから、気分が悪くなったと言ってるようなものじゃない。