「まあ、いろいろとね……それより、あの橋渡った所の桜も咲いてるのかな?」
ずいぶん勿体ぶった答えにしてはあやふや。しかも話を逸らした。
あの橋とは白瀬大橋、渡った先は大見半島。以前彼と買い物に出掛けた際に、膨らんでいた桜の蕾を思い出す。
「もちろん咲いてるよ、それがどうしたの?」
「そっか、今から観に行ってもいい?」
はあ?
いきなり何を言い出すの?
車のダッシュボードにくっついた時計は、もうすぐ午後十一時になろうとしている。幸い明日は彼も私もバイトが休みだけど、彼を送っておばちゃんに車を返さなきゃいけない。二次会がなくて、ほっとしていたのに。
「今から? もう遅いし……あそこはライトアップしてないし、車停めて観るような場所はないよ?」
「じゃあ、流すだけでいいよ。ぐるっと車で回って帰ってよ、そんなに遠回りじゃないだろ?」
そんなに頼み込まれたら断れないじゃない。流すだけなら、車窓から眺めるぐらいならいいかな。
「わかった、ちょっとだけね」
ちらっと振り向いたら、彼は珍しく笑顔を見せた。