ハンドルを握る視界の端に、彼の横顔が映ってる。前を見てても気になって仕方ない。
「でも、いつか帰るんでしょ? それとも田舎に帰るの?」
語気が強くならないように、彼の気に障らないように、やんわりと言ったつもり。『ずっと、ここに居るつもり?』と続けて言ってしまいそうになったのを堪えるのも忘れずに。
「今さら帰っても俺の居場所はないし、どっちに帰っても嫌なことを思い出すだけだからな」
彼は軽く言い放った。
お酒が入ってるからか、いつものとげとげしい口調が少しだけマシなように思える。
もしかしたら、今なら何か話してくれるのかもしれない。
「何があったの?」
前を見たまま、問い掛けた。
彼のことを知りたい訳じゃないけど、気になっているのは確かだ。恋とかそういう感情じゃなくて、いきなり登場して居着いたことが気になる。
彼の顔がこっちを向いてる。
黙ってるからまた気を悪くしたのかと思ってたら、ふと笑った。