その時である。
ジルは一瞬、射抜くような強い殺気を感じ取った。
ハッとして背後を振り返る。
刹那、ビュウっと鋭い風の音が聞こえたかと思うと、穏やかだった渓谷に突風が吹き荒んだ。
風に煽られ、大きく揺れる吊り橋。
足元から掬われるような感覚に襲われ、ジルの視界がグルンと反転した。
吊り橋を渡り終えたローグとカチュアが逆さまに映る。
吊り橋から放り出されたジルは、ほんの束の間空中で停止した後、重力によって谷底に引っ張られた。
堕ちる。
ジルは瞬時に手を伸ばした。
荷物を抱えていない右手が橋の蔓を掴む。
間一髪、谷底への落下は免れた。
ジルの体重を支え、ギシリと音を立てて橋が不安定に揺れる。
ジルの身体も大きく揺れた。
足元に目をやると、岩にぶつかりながら流れる川が見えた。
高さは特に怖くも何ともない。
だが、あの岩に叩きつけられれば軽傷ではすまないだろう。
ジルは安堵に大きく息を漏らした。