頭上でジャリっと砂を踏む音がした。


見上げると、ローグと目が合った。


ローグは炎を燃え滾らせたソードを両手で持ち、足を踏ん張ると、龍に向かって構えを取る。


あの龍を魔法剣で迎え撃つ気だ。


一瞬だけ合ったローグの目が語っていた。

ここは俺に任せろ、と。



ジルは驚愕の思いだった。


あの焔の龍を迎え撃つなんて勝機の沙汰じゃない。


万が一、この窮地を脱したとしても、魔法で特殊防御を施したマントがなくなった今、ローグ自身無傷ではすまないだろう。


だが、二度目の襲撃を避けるだけでは、また方向を転換させて襲い掛かってくる。


ならばここはローグを信じて任せるしかない。



ジルは覚悟を決めると、腕の力と背筋を使って跳ね起き、前傾姿勢で地を蹴った。


向かうは焔の龍を操っているクリストファーだ。


相手の魔法使いの魔法力は計り知れない。

新たな魔法で応戦してくる可能性もある。


一か八かの思いだが、ローグの覚悟を無駄にはできない。


ジルは渾身の思いでクリストファー目掛けて飛び込んだ。



脇を閉めて自分の小柄さを利用し、相手の懐に潜り込む。


下から繰り出した肘鉄は、クリストファーの顎にヒットした。


「がはっ…」


予想もしていなかった攻撃にクリストファーは苦痛の声を漏らした。


ジルの攻撃はクリストファーをよろめかせた。


更に右手の甲を蹴飛ばし、握っていた杖を弾き飛ばす。


相手の脇を擦り抜けて背後に回り、羽交い締めにかかった。